漢仁帳

人材育成プロトレーナー漢仁のブログ

掃除に学ぶ〈自分磨きのコツ〉

もう15年以上前の話になりますが、私が人材育成トレーナーとして社員研修にお伺いした会社のお話をします。

 

その会社は、定期刊行物(小冊子や会報誌)、チラシ、ポスターなどを印刷する会社で、社員数15名ほどの小さな印刷会社でした。

 

知人の紹介で、その会社の社長からご連絡を頂いたのですが、「社員研修をお願いしたいのだが、何をしてもらえば会社が良くなるのかわからない」と、かなり憔悴し切った様子でひどく落胆されていたのを憶えています。


社長の悩みは・・・

 ① 社員がすぐ辞めてしまうこと。

 ② 社員ひとり一人が孤立している。(まとまりが無く助け合いもない)

 ※出勤してから帰宅するまでの間、誰とも会話をしない社員がたくさんいる。

 ③ 社内が汚い

 ※掃除をしてもすぐ汚れるので掃除するだけ無駄と社員は思っている。


今でこそビルメンテナンスの会社や清掃業者は沢山いますが、その当時は掃除を外注するのが勿体ないと言われる時代だったので、自分の会社は自分で掃除するという会社がほとんどでした。

 

最初の訪問の時、知人から「スーツが汚れるから覚悟しておいてね」と言われていたのですが、その会社に着いた時に言われていた意味がすぐに分かりました。

 

思っていた以上にかなり汚い。

 

出されるスリッパも「靴下が汚れるのでこれ履いて下さい」と勧められたのですが、履くのを躊躇うほどにスリッパも汚れていました。


話は変わりますが、みなさんは几帳面な性格ですか?

有るべきものがいつもと同じ場所に収納されていないと気になるってことはありませんか?

 

例えばテレビのリモコンが同じ場所に無いと何故か居心地悪いとか・・・

 

ソファーの上のクッションの位置がいつもと違うと違和感があるとか・・・

 

テーブルや棚の上で人差し指をツーっと滑らせてホコリの指チェックをしたり・・・

 

台所のコンロ周りの油はねが気になって急遽掃除を始めたり・・・


掃除している人からすると、汚れていたらついつい掃除したくなるんですよね。


いつも掃除しているからこそ汚れている箇所があるととても気になります。いつも綺麗にお掃除する人ほど細かいところに気が付くということですね。


話を印刷屋さんに戻します。


先ず最初に、この会社の社員さんにどのような研修を実施すべきかを探るために、毎日の仕事の流れから見てみようと思ったのですが、見事なほど機械の前から動かない。


インクが床に再三こぼれるから床が黒くなっています。印刷ミスで廃棄するチラシが床に散乱しています。

 

だから仕事終わりには掃除するのかと思いきや終業時間のベルが鳴ると手袋を投げ捨ててみんな機械の前から黙って離れていきます。

 

普通は「お疲れ様でした~!」とか「お先に失礼しま~す!」なんて言葉が飛び交うものなのに、みんな険しい表情で帰っていきます。


この会社はどうしてこんなに荒んでいるのか?

私の問い掛けや、会話をしようとして投げかける言葉にほとんど反応がないんです・・・

 

先ずは掃除の実習から始めて社員の反応をみてみようか・・・


そう思った私は、後日、社員ひとり一人に掃除道具一式を配って様子を見ました。

 

毎日仕事終わりに実施する掃除の時間を15分に定めます。

 

最初はみんな仕事を増やされたことに怒っていましたが、段々真面目に取り組んでくれて、少しずつ社内が綺麗になってきました。

 

しかし、喜んでいたのも束の間、監視されていないと社員の掃除が段々適当になってきて、どうやって早く終わらせるかだけを考えて掃除しているようでした。

 

乗り気じゃないのが伝わってきます。

 

簡単に履き掃除をして、機械回りだけ整理整頓したら「はい!おわり!」

こんな掃除なら小学生でも出来ます。

 

次の手を打たないと・・・

 

社長にお願いして「掃除実習」をさせて頂くことになりました。今度は私も混じって。

その日は半日で仕事を終わらせて午後から夕方まで社外へ掃除に出掛けることにしました。

 

この掃除実習は、毎日のお掃除とは違う雰囲気で「地域住民へ日頃の感謝を込めて」と題して、自分たちの会社ではないところを掃除します。

 

私が引率して一番みんながやりたがらない場所に誘導します。

 

営業マンが休憩で立ち寄る公園にある地域で最も汚れた公衆トイレです。

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「なんでこんな汚いトイレを掃除させるのか説明して下さい」と社員の一人が私に言いに来ました。

 

「それも考えながら掃除してみてください」と私は答えました。

 

「病気になったらどうするんですか?」と社員。

 

「マスクして手袋して掃除道具を持ってるのに病気になんかなりませんよ」と私。

 

「素手で便器を洗えと言ってる訳じゃないでしょ?」とさらに私。


15分ほど経って掃除をしていた社員が言いました。

 「綺麗になんてならないですよ!こんなトイレ!」

 

他の社員も掃除を止めてトイレから出てきました。

「もう無理!止めよう!」

 「綺麗にできるものならあんたがやって見せろよ!」



私は社員のみんなに「付いて来て下さい」と言って、トイレの中に入り、便器の前にひざまずきました。

 持っていたたわしで力を入れて便器をこすると面白いように汚れが落ちていきます。

 

私は便器をこすりながら言いました。

 

「やる前から諦めて、綺麗にするつもりもないくせに、何が無理なんだ?」

「自分たちが働く社内を見てみろよ!インクだらけで汚れまくってるのに何とも思わないのか?」

「そんな汚い場所で働いて、いつも誰かに依存して、誰かが掃除してくれるのを待っているおまえらに会社に対して文句を言う資格はない!」

「言いたいことがあるならやってから言え!」

「できるまで口を開くな!」

 

少々きつい言葉をぶちまけましたが、そこから社員たちに変化が起こりました。

 

便器とにらめっこしていた一人の社員が恐る恐る便器の中に手を入れたのです。

 

していたビニール手袋を外し、素手でたわしをつかんで磨き始めました。

 

次々と別の社員も後に続き、全ての便器の前に社員一人ずつが膝まづいて磨き始めました。

 

涙を浮かべながら磨いている社員もいます。

 

私は彼らに言いました。

「今までやらないといけない時にやらずに諦めてきたことがどれだけある?」

「いままで諦めて出来なかったことをとことんやってみろよ」

「これ以上は無理だと思って止めたところが自分で勝手に決めたゴールになってるんだろうが!」

「できるまで止めるな!」

 

そこから2時間・・・

 

社員のみんなは一言も喋らずに便器をこすり続けました。

 

地域でも有名な汚いトイレはまるでリフォームしたかのように真っ白になり今も地域の人たちによって磨き続けられています。

 

無気力な社員たちがとことんやるようになる瞬間に必要だったのは「やる!」と覚悟を決めることと、手を突っ込む勇気でした。

 

その後、最強のトイレを克服した彼らには共通の成功体験ができました。互いの頑張りを認め合い、誰かがつまづいていると手を差し伸べるようになりました。

 

コミュニケーションが図られるようになったことで業務も円滑に回るようになりました。

 

汚れていた社内はゴミや汚れを探すのが困難なほど綺麗に掃除され、仕事終わりの清掃は、就業時間内に使用した機械のメンテナンスとして毎日行われています。

 

職場にコミュニケーションが生まれたことで、退職者が減り、今では5名増えて20名になったそうです。

 

平凡で単純なことに工夫を加え、徹底してやり続けることで分かることがあります。

 

理屈ではなく、実際にやった人にしか分からないことがあります。

「体験に勝る学び無し」



漢仁